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ビオブログ

富士市民大学で地下水の勉強-2

本日より七十二候は、【腐草為蛍:かれたるくさほたるとなる】。
蒸れて腐りかけた草の下で、ホタルが明かりを灯し始める頃、という意味です。

ホタルと言えば、綺麗な水、のイメージ。
私が子供の頃は、松岡(JR富士駅近く)の大叔父の家の周りの田んぼで、よくホタルを捕まえた記憶があります。
今は限られたところでしか見かけませんね…。

と、流れよく、前回の七十二候に引き続き、富士市の水質のお話です。
富士市民大学で、学んできたものです。

こちらは、富士市内今泉の某所。
奥に岩肌が見えますが、富士山の溶岩の先端です。

富士山の溶岩には、10万年前の古富士と、1万年前の新富士の層があります。
新富士溶岩には、古い順に、大渕溶岩、曽比奈溶岩、三ツ倉溶岩の3層があり、この層の間を地下水が通っているわけです。
(古富士にも更に深い層にも地下水はあります)

で、ここは大渕溶岩の上に、曽比奈溶岩が流れてきて止まったところ(先端)。
溶岩がむき出しになり、その下から地下水が湧き出ています。

今泉には、田宿川という湧き水100%の川があり、住宅地を流れています。
茂っているのは「ナガエミクリ」。
実は準絶滅危惧種ですが、繁茂しずぎて困るので、町内会によって定期的に伐採・清掃がされています。

この様に、今泉地区には路地のあちこちに地下水が湧き出ており、住民に大切にされ、

それらが集まって田宿川になります。

前回の富士宮浅間大社の湧玉池をスタートに、バスで各水源地を回りながら、水質調査を行いました。
上の写真は電気伝導度を測っている所。

上は、硝酸イオンを測っているところです。

 

人間は、一人一日あたり10gの窒素をし尿や生活排水として出しています。
窒素はリンと共に水質を富栄養化させ、プランクトンの大量発生の原因になるのはよく知られているところです。

今から70年以上前、アメリカで飲料水中の硝酸塩がメトヘモグロビン血症の原因になる、という報告が出され、60年代になると規制されるようになりました。

血液中に硝酸塩が入ると、ヘモグロビンがメトヘモグロビンに変化、酸素を運べなくなり、チアノーゼを引き起こします。
生後1,2ヶ月の赤ちゃんが硝酸イオンを多く含む水を飲み続けると、メトヘモグロビン血症になるとされ、現在日本では、水道水の基準で硝酸態窒素量を、1L当たり10mg以下(硝酸イオン換算では44.3mg)としています。

この基準が定められても、70年代までは窒素汚染そのものが少なく、日本で問題になるのは80年代からでした。

 

さて、この硝酸イオン量ですが、前回ご紹介した富士宮の湧玉池、よしま池、白糸の滝では2mg/L(硝酸態窒素量換算で約0.5mg/L)だったので、水道水の上限の硝酸態窒素量10mgに比べ、綺麗なお水と言えますね。
さすが、富士山の天然水!

ですが、綺麗な田宿川含め、今泉周辺の地下水は、硝酸イオン量が、10~30mg/L(硝酸態窒素量で2~7mg/L)と、水道水としては許容量ですし、健康上は全く問題ありませんが、「きれいな富士山の天然水」って言うにはちょっと「ん?」と考えさせられる値でした。
(実際、富士市の海寄りの硝酸値は周辺自治体の水道に比べてもかなり高い…。)

で、富士市の標高が低い場所に湧き出る地下水の硝酸態窒素量の値が高い原因は、ずばり、茶畑の肥料、なのだそうです。

「人だって窒素を出すし、水田とかもあるじゃん?」
と思って講師の藤川格司先生(常葉大学社会環境学部)に色々質問したのですが、同位体元素の測定で、現在では明確に区別できるのだそうです。
(人的由来は窒素同位体含有が10‰程度なのに対し、空気や空気中の窒素由来の化学肥料はほぼ0‰ということによる)

前回の藤川先生の講義で、流域面積とその地に降る雨と水系の水量の関係性の計算法などを学びました。

それをもとに田宿川を計算すると、
・流域面積=28km2(降った雨が流入する部分の面積)
・流量=約5,046万トン/年(河川の断面積と流速で計算可)
・硝酸イオン量を10mg/Lとすると硝酸態窒素は2.3mg/L
・硝酸態窒素は2.3mg/Lに流量をかけて約116トンが田宿川への窒素の年間流出量
・グーグルマップの画像解析から流域面積の茶畑面積を割り出す
・流域面積の20%が茶畑→28km2の2割で5.6km2=0.56ha(1ha=100m2)
・116t÷0.56ha=207kgが、茶畑1haあたりから田宿川に流出している年間硝酸態窒素
・統計より、実際の農作業で、茶畑1haあたりの年間硝酸態窒素施肥量=600kg
よって、207kg÷600kg=約35%なので、茶畑に撒いた化学肥料の窒素分のうち、35%が地下水に流れ込んで汚染している、という結論に達します。

ちょっと驚きでした。

茶畑の土壌は水はけが良く、空気が入りやすいため、元茶畑の分譲地では、地盤改良が必要になることが多いという実感があります。

空間が多い土のため、肥料は流出しやすく、多量の施肥が必要になります。
そもそもお茶の木は窒素分を多く摂取するほど美味しくなるらしいのですが、土中の窒素の半分くらいしか摂取できないのだそうです。だから過剰に施肥されがち。

土壌中に空間があり、酸素が豊富なので、肥料中のアンモニウムイオンが酸化されて、亜硝酸、硝酸になり、これが土中に染み込んで地下水の硝酸態窒素汚染が発生する、というメカニズムです。

ちなみに「水田などでは、泥の中が酸素のない還元状態なので、アンモニウムイオンの酸化は起こりにくい」構造とのこと。

こうした肥料は、茶畑だけでなく、ミカン畑や果実などの温室栽培などでも 、多量の施肥が行なわれており、地下水の流れは表流水と違って非常に遅いことから、今までに使われた肥料の影響は、これから本格的に出てくる可能性も…。
肥料の過剰投与を抑制しなければならない(実際昔の茶畑では600kg/1haではなく1t/ha使われていたそう)し、硝酸化がゆっくり進む肥料の開発など、多くの課題があるとのことでした。

 

ちなみに富士市は、一定規模の自治体では日本一水道料金が安いと聞いたことがあります。
富士山のおかげ。
富士市には、80箇所の井戸と、下の写真のような62のタンクがあり、これを水道水として家庭に配っています。

このタンクの容量は2,000トン。
半径約8m、水位は10m弱。

地下水は当然富士山の地下水で、年間ほぼ一定で14~15℃。

富士市全体では、62のタンクに、年間10万トンの水を電気代4億円をかけて汲み揚げるそうです。
ろ過も消毒も不要ながら、法律上次亜塩素酸消毒がなされ、各戸の蛇口に届きます。

ちなみにこのタンクは「東片倉配水池」と呼ばれ、地下183mまで掘られており、新富士溶岩ではなく、更に深い、古富士溶岩層の地下水が組み上げられています。

そして、ここは実は、我が家のすぐ近くで愛犬びおのお散歩コース。
つまり、我が家はこのタンクの地下水を飲んでいます。

周囲は茶畑ですが、富士市でもだいぶ上の方にあり、標高100mより浅い、つまり深い層から組み上げているため、ここではまだ硝酸イオンはほとんど検出されませんでした。

そう、我が家では、蛇口をひねれば富士山の美味しい地下水が出てきます。
だから水割りも美味しい。

休日になるとマイカーが列をなす今泉の湧き水汲み場の水よりも、硝酸イオンに汚染されていないきれいな水が…。
周りは茶畑ばかりなのに、なんだか申し訳ない…。

とても勉強になり、考えさせられる実習&講習でございました。

文:鈴木

2018年06月10日

Post by 株式会社 macs

カテゴリー:ビオブログ, 地域のこと

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